8/31・市電フォーラム第1回「市電の現状と路面電車の将来」開催/2004-08-31 |
札幌市の路面電車「市電」が存亡の岐路に立っている。利用者の減少や設備老朽化による将来投資の増大などで、経営危機が迫っているのだ。 札幌市の路面電車事業の存廃について、将来を見据えながら市民とともに考える場という触れ込みで、8月31日、札幌すみれホテルにて札幌市主催の市電フォーラム「みんなで考えよう路面電車のこれから―市電の現状と路面電車の将来―」が開催された。 導入として、市電の会の山本晃靖氏から札幌市の市電の歴史、札幌市企画調整局交通計画部の二木一重交通企画課長から市電の現状と課題が報告され、基調講演には、広島電鉄(株)電車カンパニープレジデントの中尾正俊常務取締役が、「路面電車再生物語:広島の取り組み」という演題で講演。最後に(株)石塚計画デザイン事務所の石塚雅明代表取締役をコーディネーターに、中尾氏、北海学園大法学部の樽見弘紀助教授、札幌市企画調整局の高宮則夫交通計画部長をパネラーとしたパネルディスカッションを行った。 中尾氏は基調講演で、広島電鉄が路面電車存続のためにまず施した施策は、1971年に広島県警の協力で行った軌道敷内への諸車乗入禁止措置だったと説明し、ついで交差点内軌道敷内での右折待ち等を回避するため停車禁止ゾーン(一時停止線)の導入(1983年~)、電車優先信号の設置(1974年~)と、社会インフラとして存在する路面電車が十分な機能を発揮できるよう、行政と連携しながら対策を講じてきた歴史を紐解いた。ついでJRなどの専用軌道と市内共用軌道との相互乗り入れによるシームレスネットワークの構築や、JR各駅と接続した高速-低速交通のネットワーク化、低床車両導入による快適性の確保など、さまざまなソフト政策も紹介した。併せて人件費率削減に大きな努力を払ってきた経緯を説明し、路面軌道事業者の平均年収を示して、 「大手私鉄の平均は年収約660万円、最低のケースでは平均約380万円であるのに対し、札幌市交通局のそれは、平均約820万円。どうこう言うつもりはないが、突出して高いという事実は認識して欲しい」 と釘を刺した。 二木氏の課題報告によれば、2002年度の札幌市路面電車事業の経営状況は、収入約13億8200万円、支出約14億9100万円で、約1億1000万円の赤字となっている。一方、今後2004年から2020年までの16年間に、車両の更新・低床化や軌道・施設の改修などで約90億円の投資が必要になるという。 だが、パネルディスカッションではコーディネーターの石塚氏が、広島電鉄の人件費率から試算して、「同程度の人件費率が達成されれば赤字分をほぼ相殺できる」と言及。中尾氏からは、「いまのままでは盲腸線でしかない。最低限、JRの中核ターミナル駅までの延伸を行い、結節機能を確保しなければならない」「投資の方法はさまざまにある。リース方式を採用した事業者も例がある」など、さまざまなアイデアを提示、樽見氏は、「市民による議論不在のまま、路面電車の存廃が決まるようでは困る」と苦言を呈した。 今後、市電フォーラムは、11月頃開催の第2回「市電の存廃問題を考える」、来年3月頃開催の第3回「市電の存廃の方向性について」へと進む。 中尾氏によれば、路面電車の存続には三つの条件があるという。ひとつは経営体質の改善。二つめに快適性の改善、三つめに結節機能の改善ということだ。 「いまからでは遅いかもしれないが、路面電車のあり方はこうあるべきというグランドデザインを札幌市側は、すでに示すべき時期である」 これも中尾氏の言葉である。 広報さっぽろ2004年7月号のアンケート調査によれば、理由はどうあれ68.7%の市民が存続を希望しているという。市はこのフォーラムを市電廃止のエクスキューズにするのか、それとも、市電を含めた新たな交通ビジョンを示す場にするのか。残り2回のフォーラムで明らかになるはずだ。 ●札幌市企画調整局総合交通計画部 http://www.city.sapporo.jp/sogokotsu/index/
写真: 拝 映輔
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