北海道各地に多種多様な官営インキュベーション設備ができて久しい。 しかし、こうしたインキュベーション(孵化器)から実際に生まれ育った企業はどれくらいあるのだろうか? そもそも、どれくらいのインキュベーション設備が企業体のタマゴ孵化を目的として運営されているのかが非常に疑問だ。多くのインキュベーションを視察すると気がつくのが、入居法人の肩書きの大半が財団法人やある程度の大きさ以上の株式会社という点だ。 そもそも、卵を入れていないということが明白である。これでは、孵化器ではなく良くて鶏舎でしかない。施設運営においても、残念ながらベンチャーの実情とそぐわないものが多い。 例えば、大学発ベンチャーであれば研究室の学生とのコラボレーションは必至と言える。学生をインキュベーションまで呼び付け研究開発するのは比較的普通の光景だ。その際、学生であっても北海道であれば、移動に車を利用するのは普通であろう。一般には、駐車場に空きスペースがあれば、繰り返し訪問するとはいえそうした学生も来客扱いで駐車スペースを利用したり手続きしたりすれば問題ないだろう。 にもかかわらず、とある3セクのインキュベーションセンターでは、インキュベーション内の食堂に来るお客には気軽に駐車場を開放する一方で、そうしたコラボレーションの学生に対しては、駐車禁止として排除してしまうのである。施設の管理者側の言い分としては、月極の駐車料金を払えと言うことらしい。 ベンチャーをやった人間であれば、こんなくだらないことに気を使うだけでも馬鹿馬鹿しい。とはいえ、明らかに新しい産業を作るためのサポート(新産業の孵化)ではなく、今すぐの即金(既存企業からの集金=お食事)を欲する姿勢としか言えない。見様によっては、卵を孵化するのではなく、その場で茹でるなり焼くなりして食ってしまおうというスタンスにしか見えない。これで、その企業は作業に支障をきたしているので、明らかに新技術開発が遅れている。見様によっては折角孵化しようとする所に水を差す行為だ。 本来は、卵を孵化させてひよこに。ひよこを育てて鶏に。鶏がまた卵を産んで更なる孵化。というサイクルを繰り返す中で、その残りを大きく食べていこうというのが本来の産業振興であるはずだ。明らかに、タマゴを駄目にしてその後は何もしないと言う種もみを食って飢えるという典型的なパターンだ。 いままでの北海道を駄目にしたスタンスといっても過言ではない。 いったいここの施設は、孵化器なのか。それとも、オーブンなどの調理器具なのか。はたまた、産業の種を氷付けにして無駄にする冷凍庫なのか。作った人と運営する人に一度聞いてみたいものである。 ちなみに、一度、大阪のあるインキュベーション施設を視察してきたが、ここは大半が個人事業と合資会社と有限会社。本当にタマゴだらけだ。当然運用のスタンスも「孵化器」に徹していて、この手のくだらない管理はほとんど無いようである。 自分のことと心当たりのある施設のかたは、独り善がりに運営していないで、日本中の公私問わない様々なものを本質的な部分で視察して、参考にしていくべきだろう。
舟橋正浩
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