発行:Funahasi.Com & 北海道経済産業新聞運営委員会
Last UP Date:2014-06-29
Interview・荒磯恒久氏・北海道大学先端科学技術共同研究センターリエゾン担当教授/2005-01-10
連携の仕組みは揃った
あとはどう活用するかだ
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 2004年4月に大学法人化を果たした北海道大学は、「旧七帝大」の一角として国内トップクラスの大学の座を占めている。とは言え、その順位は規模、研究レベルなどほぼ全ての分野で7~10番目。文部省が進めるCOEプログラムでも、採択件数は全274件中12件に過ぎない。そんな中で、北大自身の生き残りを賭ける戦略は、「地域競争力の強化」であると主張し続ける研究者がいる。荒磯教授は、2001年6月に、北海道中小企業家同友会と連携して北海道産学官連携連携研究会(HoPE)を設立、先端的知見を中小企業の経済活動の現場に落とし込む活動を続けてきた。2003年4月には、全国組織の産学連携学会(J-SIP)の設立に携わり、系統的な学問として産学連携学の発展と、地域競争力強化の構築に力を注いでいる。
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 ――道内の産学連携は、順調に経済活性化へと結びついていますか。
 荒磯 HoPEを設立して丸3年が経過し、会員企業も220社になりました。もともとHoPEの発想は、1対1の産学連携では領域が限られ、イノベーションが発生する確率が低いという部分をどう克服するかにありました。そこで考えたのが、ある企業について大学側から「ホームドクター」を1人選び、事業化ニーズに応じて専門のアドバイザーとなる教官を紹介するというシステムです。すでにアドバイザーには各大学・研究機関から100人以上の研究者に協力して頂いています。中小企業にはさまざまなニーズがあり、それに応じた多種多様の研究会がHoPE内部に組織されています。
 ――企業の新規開発を誘発するには、非常に良いシステムですね。
 荒磯 すでに(株)ウェザーコックの立体地図に多色印刷を行う「3Dリアルプリント」や、北原電牧(株)の自動給餌システム「マックスフィーダー」といった、市場投入された製品も出て来ています。ただ、問題なのは、どうしても企業内部の事情に沿って事業化ニーズが出て来るため、その範疇を超えた活動には繋がりにくいですね。
 ――たとえば。
 荒磯 新製品の研究開発などでは充分な効果を発揮しますが、全く新しい着想のビジネスを展開するところでの弱さがある。つまり、得意分野の異なる複数企業が連携して新たなシーズを基に事業化するといったことです。
 ――それでも、HoPEでは、北のブランドものづくり工房というベンチャーが起業しています。
 荒磯 ものづくり工房というのは、共同受注・生産システムを設立して、道内の機械メーカー・商社と連携し、大学・研究機関のシーズと組み合わせて注文に応じた機械を生産するというベンチャー企業で、公設試を含めた学の柔軟な対応がカギです。いまのところHoPEで唯一の起業事例です。社名はプラウシップ、大地を耕すプラウの精神という意味です。ぜひ成功して欲しいと願っています。
 ――他の地域にも、さまざまな産学連携の事例があります。
 荒磯 古典的な共同研究・受託研究、技術相談やコーディネートなどから始まって、リエゾンやTLOといった技術移転、知財活用や産学公連携・公設試などの地域連携、テクノパークやR&Bパークなどの、クラスター生成に至るまで、事例は星のようにあります。財務においてもVCやエンジェル、ファンドなどがあり、ほかにもインターンシップやMOTといった教育分野、包括連携やマッチングモデルなどの連携手法もあります。問題なのは、いままでこういった事例を集約せず、ただ散発的、試行錯誤的にトライアルを繰り返していたという、国内の産学連携に対する態度の未熟さなんです。
 ――それで、産学連携学会を設立した。
 荒磯 そうですね。事例を集約するだけであれば、学会を設立する必要はとくにありません。しかし、集約した事例から、連携活動を行うのに必要な要素はどれか、成功した連携事例とそうではない事例ではどこが違うのかなど、系統的に分析することで、今後の経済活性化を加速することが出来ると思っています。また、これまで産業上も学問上も、あまり評価されてこなかった「連携に関与する人たち」に、一定のスポットを当てることも可能になると思っています。
 ――どんな内容を研究しますか。
 荒磯 事例の分析・研究に基づく産学連携構造論や比較産学連携論、連携による経済活性化のプロセスを探る企業イノベーション論や知的財産活用論、連携システムの作用原理を解き明かす産学連携システム論、知的生産プロセス論、さらに政策的援用のあり方を研究する産学連携政策論と、合計7つの要素を考えています。産業と大学という、全く別の原理で動いて来た組織が、今後より効率的な連携を必要としています。また、その連携とは、産業の側だけ、あるいは大学の側だけといった、扁利的な連携であってはいけないはずです。産学連携学を研究していけば、日本の現状に適合した連携システムを必ず提示できるようになるはずです。
 ――道内での産学連携にも応用できますか。
 荒磯 当然そうなると思います。いまの北海道には、道庁道経済産業局などの公的セクタ、企業集団としての北海道経済連合会道中小企業家同友会、研究開発には各大学や産業技術総合研究所(AIST)をはじめとした各公設試、コーディネーター役に北海道科学技術総合振興センター(NOASTEC)をはじめ、北海道産学官連携センター(コラボほっかいどう)科学技術振興機構(JST)研究成果活用プラザ北海道、さらには銀行やVCなど、経済活性化のための支援機関は充分過ぎるほど揃っています。北大も道や札幌市などと地域包括連携を締結し、前述の各機関と連携してR&Bパーク札幌大通サテライトを開設しています。道内の企業関係者には、これらの組織をどう活用するかが問われている。中央では、「これで出来なければ、北海道は…」とまで言われるほど恵まれた環境のはずなのですが、実態として活用し尽くしているとは言えない状況です。
 ――なぜでしょう。
 荒磯 何となく想像がつくと思いますが、支援機関自体の連携が取れていないのです。例えて言えば、エンジンを組み立てたが、どう回せば良いのかわからない状態です。しかも現状では、構造が悪いのか、単純に燃料が不足しているのかもわからない。これではいけない。ここに産学連携学の成果を使えれば良いと思います。北海道の地域競争力の強化のために、産学連携というツールを有機的に活用できる体制を整えたいと思っています。
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 荒磯教授が北大先端研に赴任したのは、産学連携や大学発ベンチャーなど全く注目されていなかった1996年。以来、地域共同研究の最前線に立ち続け、産学連携に関するさまざまな難題を目の当たりにしてきた。経済的基盤が弱い北海道の地域特性として、中小企業と共同研究による新事業の誘発を第一義と捉え、HoPEという産学連携組織の運営にも携わってきた。大学発ベンチャー企業が、目標の1000社創業を達成したと予測される2005年、荒磯教授は「産学連携」を流行語としてではなく、体系的に捉え直すことに挑んでいる。
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あらいそ つねひさ
1949年3月10日、釧路市生まれ。釧路湖陵高卒業後、68年北大入学。78年、北大大学院理学研究科にて理学博士を取得し、カナダ・アルバータ大研究員、アメリカ・イリノイ大研究員を経て、83年北大応用電気研究所(現・北大電子科学研究所)助手。89年同助教授、96年北大先端科学技術共同研究センター助教授を経て、2001年同教授、現職。専攻は生物物理学。
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●北海道大学 先端科学技術共同研究センター
〒001-0021
 札幌市北区北21西11
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 Fax.011-706-7306
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写真:荒磯恒久氏
拝 映輔
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