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Last UP Date:2014-06-29
Interview・附柴裕之氏・(有)GEL-Design(ジェルデザイン) 取締役/2005-03-30
大学のシーズを基盤に起業
“ゲル”のデザインに挑む
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 大学発ベンチャー1000社構想が発表されて以来、道内でも盛んに大学発ベンチャーが設立されている。(有)GEL-Designは、2004年9月に設立されたばかりの大学発ベンチャーであり、北大リサーチ&ビジネスパークのインキュベーション・モデルにも選定された。同社が目標としているビジネスは何か。取締役の附柴裕之氏に聞いた。
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 ――設立間もないベンチャー企業とお伺いしました。
 附柴 昨年の9月29日に会社を設立いたしました。弊社が目指しているのは高分子素材、とりわけ「ゲル」の新素材開発と実用化です。
 ――ゲルとは何ですか。
 附柴 うーん。身近なものでいうと、ゼリーの類です。寒天や豆腐などもそうです。離乳食やジャムなどを含んでも良いです。食品はほとんど「ゲル」だと言えます。
 ――食品ですか。
 附柴 実際に、弊社が開発に取り組んでいるのは食品ではありません。透明で95%以上の水を含んだゴムのように丈夫なゼリーを想像してください。素材としてゲルを実用化するという考え方は最近になって注目を浴びてきましたが、まだ、市場に出回っているものはそれほど多くありません。研究現場ではさまざまな機能を持った新しいゲルが開発されてきていますが、実際に皆さんの目に触れるものはまだ限られています。液体を大量に含んでおり、柔らかく変形しやすい、形状の不安定な材料なので、プラスティックや金属のように従来の工業製品に利用されることは難しいと考えます。液体と固体の中間的な性質を持つ素材なので、その特長を生かした利用が必要になります。
 ――なるほど。
 附柴 ゲルで産業上最も成功している実用例の一つとして、紙オムツ等の衛生用品に利用されている高吸水性樹脂(SAP: Super Absorbent Polymer)が挙げられます。これは、アメリカで70年代にトウモロコシの抽出物から作られたのが始まりで、現在は性能やコストの面からアクリル酸ナトリウムという合成ポリマーが主原料の汎用品が普及しています。年間、世界で125万トンが消費されています。
 また、ソフトコンタクトレンズもゲル製です。透明性や加工性に優れていて管理が容易、耐久性がある、酸素透過性が良い、タンパク質が付着しにくいなど、いろいろな課題をクリアするために高度な技術が使われています。これも70年代の研究成果が、80年代になって実用化され普及しました。食品では、お菓子メーカーが清涼感を謳って販売しているゼリー菓子の喉ごしの良さも、高分子の物性に関する研究成果が活かされているんです。
 これらは、研究成果から技術、製法の両面から開発が進み、実用品として普及し始めるまでに様々な試行錯誤があったもののなかで、とりわけ成功したものです。
 最近は、医療やバイオ、エレクトロニクスなどの分野でもゲルに関わるものが使われ始めているようですが、実用化はまだ先のようです。
 ――研究成果が製品に反映されるまで、すごく時間がかかっていますね。
 附柴 本当にそうですね。人々の手に渡る商品を作るまでには、様々なプロセスと大変な努力が必要です。当然時間もかかりますし、そのための資本が必要になります。しかしながら、大学などの研究成果を実用化するめの仕組みは、現在の日本ではまだまだ不十分で、それは私が関与していた研究領域でも同様だと感じています。欧米の例を見ても、こうした仕組みは将来は必ず必要になってくるものだと思いますので、まずは実験的に自分でこうした部分を補いたいと思い、会社設立を決意しました。
 例えば、開発の段階では、用途に合わせてどのような機能を持たせるか、がポイントとなります。ゲルは堅さと柔らかさをどうバランスさせるかによって、物性が変わってきます。必要な物性、機能を持たせるには、合成段階から素材の網目構造をデザインしていくわけです。
 また、こうした素材を組み込んだ製品にしてもその機能を十分に発揮してくれるように設計することが必要ですし、コストや安全性、環境に対する配慮を考えた製法についても考える必要があります。商品であれば、ユーザーの視点に立ったあらゆる観点からのデザインが必要となります。
 これらは、様々な専門分野にまたがっており、大学などの研究機関では担い切ることが出来ません。また、せっかく開発されても、実際に使われなければ意味がありませんから、「機能」だけに眼を向けていては駄目だと言うことですね。
 ――どんな機能が考えられますか。
 附柴 具体例を紹介します。現在、弊社が北大との共同研究で開発に取り組んでいる素材は、水を大量に吸収しても硬くて丈夫、という機能を持たせた高吸水性樹脂(SAP)です。まずは、衛生用品や、工業用のシール材等に利用できるものを検討しております。これに、栄養成分が入れば、細胞培養の基材や、植物の育成に用いられるものになります。また、電解質が主成分なので、イオン伝導膜やイオン交換樹脂等として利用することも出来ると思います。薄膜や微粒子状、シート状等への加工法も必要になりますので、いろいろな試作品を作成して技術検討している最中です。
 また、この分野の成果として、私が学んだ研究室の仕事はとてもインパクトがあります。ゲル素材は生体組織に類似している特長が多くありますので、その生命と非生命の境界にあるような機能性材料をゲルで作る試みが有名です。例えば、筋肉などの働きを真似た人工筋肉、体温付近で形状を変える形状記憶ゲル、生体間接の表面並みに摩擦抵抗が低い人工関節などが紹介されています。また、弊社が開発に取り組んでいる「高強度ゲル」もその1つです。将来の展望としてこうしたものが人々の生活で何らかの役に立つことを想像すると、わくわくしてきます。
 ――すごいですね。
 附柴 そうですよね。ただし、学術研究と実用技術との間には大きなギャップがあるのが実情ですから、いまのところ、弊社で開発に取り組んでいるのはある程度基礎研究が終わったものに限定しています。最先端の技術では、実用化に時間がかかりすぎますし、また、学術的な価値と実用的な価値が必ずしも一致しないことがあるので、実際に資本投下をして実用化に着手する前にある程度の評価が確立していることが好ましいと思います。そうでなくてもリスクが大きいですから、まずは、売れるものを確実に開発することが大切だと思っています。
 理想としては、大学との共同研究をしながら実用化に関わる技術課題をクリアし、人々に役立つ知的財産とすること、また、商品化、事業化については大手の企業に協力してもらう形を考えています。つまり、弊社が担うのは大学の知財を効果的に技術移転して、産業に貢献していく仕組みを作ることですね。
 ――では、製造は行わないんですね。
 附柴 原則として当分の間は行わないつもりです。現時点では開発に専念することが大切なので、製造販売が必要になった場合には、まず、他に頼むことを検討します。実際に大掛かりな生産にまで手を広げてしまっては、ベンチャー企業では手に余りますね。自らが携わった研究成果を世に出したくて会社を設立し、まずはその成功例を作ることが第一の目標ですから、何もかも自分たちで直接手を出すことはせず、得意なところに集中して、あまり得意でないところは得意な方に任せて、というスタンスを取っています。
 ――起業には結構資金が必要だったのでは。
 附柴 この点はほとんどの起業を考える方がご苦労される点だと思いますが、現在は助成金など様々に用意されておりますし、企業支援に関わる金融機関のサービスも豊富で、良い事業化プランがあれば利用できるものが多いのではないでしょうか。
 我々の場合は、幸いに会社設立前から強力な支援者がありました。(株)医学生物学研究所(MBL)という名古屋の抗体メーカーで、バイオベンチャーとしてスタートしましたが現在はJASDAQに上場しており、グループの主要17社(国内13社・アメリカ4社)では、遺伝子・mRNA・蛋白質・抗体や医薬品等の研究開発から生産・販売、あるいは投資・コンサルテーション等の多岐にわたる事業を展開しています。
 私は、大学院を卒業してまずMBLに入社したのですが、社長に「こういうことを考えている」とお話したら、是非バックアップしましょう、若いのでチャレンジするように、と応援して下さいまして、現在に至っております。西田社長はMBLが1969年に7人でスタートした創業時から様々な経験をされてきた方ですので、若い人がこうした方向にチャレンジする際には思い切って背中を押してくれたのだと思います。ただし、「ベンチャーは自己責任だから、あくまでも僕が面倒見るのは最初だけだよ」とクギを刺されました(笑)。「昔はVC(ベンチャーキャピタル)なんかもなくてね、大変だったよ。それに比べれば今はずいぶん起業がしやすくなった」とも言っていましたね。
 MBLには当初100%出資して頂き、その後の増資の際にもお世話になりました。もちろん自己資金もできる限り工面いたしましたが、お蔭様でこれまでのところは資金面では大きな苦労がなくやってくることができました。むしろ、これからが大変なのかもしれません。
 ――今後の展望は?
 今年は、メインのプロジェクトで何とか売り上げを立てるところまで持って行きたいと思っています。間違いなく勝負の1年となります。
 昨年は、何も無いところからスタートし、そろそろ6ヶ月が経ようとしていますが、現在は、スタッフも増え、設備も徐々に整い、だいぶ企業らしい活動ができるようになって来ました。これと言うのも、多くの方々の支援があってのことです。そして、何よりも心強いのは、大学のときの同僚が数人、無謀にも仲間に加わってくれたことでしょうか(笑)。そして、だんだんやり始めたことの成果が出始めてきたところです。当初描いていたヴィジョンが徐々に鮮明になって実現し始めています。いつかはこれらを完成させて我々の核としたいですね。
 今後の展開については、4月1日公開予定のWEB(http://www.gel-design.co.jp/)にて発信していきますので、是非とも応援よろしくお願いいたします。
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 ゲルは、生物の組織とほぼ同じ性質を持つという。この特質に注目し、人工臓器などの代用器官や生体親和性の高いアタッチメントを製造しようという試みが産業界でも数多く行われている。ここに大学の知的創造活動の成果をいち早く導入し、素早い進歩を行わせようと、附柴氏の大学発ベンチャーは立ち上がった。合成、機能、用途などのあらゆる面からゲルをデザインできる企業として、将来的に数多くの企業から注目されることが見込まれる。
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つけしば・ひろゆき
 1974年、千葉県生まれ。2003年に北海道大学大学院理学研究科、修士課程を修了後、㈱医学生物学研究所に入社。学生時代に携わっていた「高強度ゲル」の研究成果の実用化を目的として2004年にGEL-Design社を設立し取締役に就任、現在、技術開発と事業推進の責任者を努める。北海道大学先端科学技術共同センター研究員。
●(有)GEL-Design
〒001-0021
 本社:札幌市北区北6条西6丁目2-1-908
 事務所:札幌市北区北21条西12丁目 コラボほっかいどう2F
 Tel&Fax.011-709-2260
 http://www.gel-design.co.jp/
写真:上:附柴裕之氏 写真:下:2人の同僚(左・勝山主任研究員、右・大垣研究員)と附柴氏(中央)
拝 映輔
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