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Last UP Date:2014-06-29
進出のお返しには人材を/2006-02-12
昨年末から東海の景気を牽引し日本の景気浮揚に貢献したトヨタ効果が北海道にもじんわりと押し寄せつつある。
トヨタ自動車北海道の第3、第4工場の立て続けの操業開始、07年度からのアイシン精機の新工場の操業の予定など、その雇用効果は1工場ごとで千人単位という、非常に大きなものだ。

北海道の経済界や自治体、道庁などはは、おそらく地元企業との取引や、雇用者の消費による特需なども期待していることだろう。

しかし、そんな甘い夢はすぐに覚めてしまうだろう。
近年のこうした企業誘致の最大の成功例といわれる三重県の液晶工場誘致は、実際に、地元企業群との取引拡大にはつながらなかったし、新雇用者による既存商店街等への消費拡大にはほとんどつながらなかった。
要は、地場にその受け皿としての集積が低かったし、移り住む新雇用者にとって日々の消費地として近隣の設備は全く魅力的ではなかったのだ。
これが生み出したのは人口増加と、自治体への市民税収入と固定資産税収入と法人市民税収入だけだ。地元の既存システムへのなんら貢献は生み出さなかったのだ。

今回の北海道への工場群進出もある面では同じことだ。
自動車部品を作る会社の層は決して厚くないし、地元の商店街だって、新しく移住してくる人々にとって魅力的かどうか疑わしい。

実際、北海道の工場誘致、支店誘致は失敗の歴史でしかない。多くの企業が、業績好調時に誘致に応じ進出し、業績衰退とともに簡単に撤退している。進出する側にとって、北海道という地域はその程度のものなのだ。
他方で、日本各地にはしぶとく残っている企業子会社も少なくない。岐阜や長野、はたまた東北、九州の交通の便の悪い所など、決して地理的条件が有利なわけでもない。にもかかわらず、撤退することなくじっくりと残り続けることで、受け皿となる地元企業も育ち、近隣の商店街や流通もその企業を機軸に生計を立てている。

この差はどこで生まれるのか。非常に回答はシンプルだ。地元のエリートが東京の大学進学よりもそこへの就職を選ぶからだ。
北海道本社、東京営業本部という構図の会社の社長が口をそろえるのが「本社人材の無能さ」である。そうなる理由は、多くの北海道での高校の進路指導を思い出せば簡単だ。出来る子は大学進学に振分け、出来ない子は就職指導に入る。特に出来る子は道外に積極的に送り出す。学力エリートが必ずしも企業エリートとは限らないし、学力不振の子が、すべからく、企業内で使えないということではない。が、やはり、意欲を持って高校生活を送れる子は、意欲を持って企業生活も送れることはしばしばである。
本州の田舎では必ずしもそうではない。子は地元企業に勤めることを尊び、親は地元企業に就職することを大変喜ぶ。これに基づいて進路指導もなされる。この構図であれば、優秀な子は地元の企業に早くから就職するし、大学を卒業してからそこにも喜んで帰ってくる。
「進出すれば優秀な戦力が手に入る」というのが、企業にとって何物にも換えがたいことなのである。

このように、優秀な人材を積極的に送り込み続ければ、その工場の能力も向上していく。そして、その工場での生産内容もその企業にとって重要なものになっていくし、その工場を短絡的に撤収させることは出来なくなってくる。そうなれば、地元への波及効果はじんわりと現れ、地元全体の景気を浮揚させるはずだ。

トヨタもアイシンも、今回の進出工場の生産物はATが軸になっている。エンジンに次ぐ車の心臓部品と言ってもいいものだ。北海道における人材への期待度の高さが伺える。
この期待に北海道がどこまで応えれるかが重要である。彼らに経済浮揚を期待するのもいいが、その期待に応えなければ、そんな身勝手な注文は通らない。
まさに、工場進出のお返しに必要なのは、おかしなセレモニーではない。継続的に地元の優秀な子をどれだけその工場に送り込めるかである。そして、最後にはその工場を地元の人間だけで運用してしまえば、もはやその企業はその地元から逃げれないのである。

期待に応えつつ、地元への外貨誘導のための工場を育てる上げる。それは企業の仕事ではない。実は人を生み育て進路を決めていく地元の仕事なのだ。

舟橋正浩
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