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Last UP Date:2014-06-29
うきうきして候-蝦夷地開墾事始異聞-(6)/2006-06-14
「とにもかくにも。大方のアメリカのやつらは損得勘定だけだからなぁ。オランダとかヨーロッパと違って教養が無くていけねぇ」
 カマがビールをぐいっと一口飲む。そして声を潜める。
「お前だから言うが、そもそも、あいつらがあの時局外中立を破らなかったら、あの時だって状況は違っただろう。いや、あの時のことは言うまい。だが」
 カマが静かな表情で、ビールを空ける。郁は黙って聞いている。
「自分たちの成果を少しでも高く売りつけようと、嘘ばかりこきやがる。ほんと、あれがアメリカの政府の中枢だったのかね。体よく日本にゴミを押し付けられた気分だ。」
 郁が黙って聞き流す。カマが続けて言う。
「ほんとに奴の言うことだったら盗人猛々しい。あんなやつらの盗人教育を受けた日本人が蝦夷地開拓とは今後が空恐ろしい。」
 ホールのボーイにビールを注文する。
「やれやれ、やっぱりカマさんは根に持ってるんじゃないか。」
 郁が呆れ顔で苦笑し、話を促す。
「だってよ、人が金山を見つけたと報告したら『それは、お前が人夫に砂金をばら撒かせただろう、ある分けない。』とかぬかすんだぞ。てめぇが見つけられなかったからって、その言い草。ふざけんじゃねぇだ。」
 ビールがテーブルに来る。カマは、さっとつかみ一気に飲む。

「挙句に、三つ炭山を俺が見っけたのに、あいつらの調査で発見したとか言う話に摩り替えられているじゃねぇか。おまえのところから来た坂にいたっては、日本人の癖にメリケンどもの片棒担ぎやがって。あいつらが行く前に幾春別川の湿地や密林を越えて、あんなところにキャンプまで張って苦労したってのによ。もう無いのか。もう一杯」
 また、ボーイがビールを持ってくる。郁が苦笑しながら言う。
「そう、坂を悪く言うな。あいつも熱心に日本のための炭山調査をしているんだから。それに、数少ないまともな卒業生の一人だぞ」
 ビールをまたぐいっと空けて、カマが話を続ける。
「極めつけは、石炭を運ぶ鉄道敷設の計画だよ。一番でかい夕張から近いからって、アメリカに気を利かせて、太平洋側に引っ張ってやろうといったのによ。俺が言ったってのが気に入らないらしく、なんでも反対だ。自分が高く売れりゃそれでいいんだよメリケン人は、国家天下なんざかけらも考えてねぇ、小物ばかりだ。」
 郁が言う。
「とはいえ、新しい国を作るうえでは新しい国を参考にという意味で、アメリカとの関係を深くする必要はあるだろう」
 カマが言う。
「ああ、そうさ。理屈の上じゃそうだろうよ。福沢もそういってるよ。黒田も我慢してるんだろうさ。でもよ、嘘つきアメリカ人に、やる気のない日の本の連中。あんな自分大事で経綸も無いような輩が、右を見ても左を見てもあふれる蝦夷地には、俺はもううんざりだ。夢破れたりだ」
 郁がビールを飲んで、ため息をついて言う。
「まぁ、そこまで悲観的にならなくてもいいだろうさ。悪いことばかりでもないだろうよ」
 沈黙が流れる。カマがビールを注文する。

この作品はフィクションであり、実在するいかなるものとも関係はありません
舟橋正浩
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