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Last UP Date:2014-06-29
2009.05.01/3月末で解散した北海道TLO(株)、事業を承継するのは北海道大学に/2009-05-05
 2009年5月1日、北海道大学(札幌市北区北8西5、佐伯浩総長)が文部科学大臣および経済産業大臣に申請していた「特定大学技術移転事業の実施に関する計画」(以下、実施計画)について、承認する旨の報道発表があった。
 承認された実施計画では、北海道大学内部に新設された産学連携本部の事業化推進部の中にTLO部門を設置し、技術移転業務を行うと同時にTLO部門内に広域連携室を置き、他大学との技術移転に関する連携協力を行うとされている。

北海道大学が承認TLOに

 そもそもTLOとは、大学等の知的財産をスムーズに民間事業者に技術移転できるよう知的財産を管理し、民間等に営業活動を行うための組織である。
 嚆矢は1970年代初頭にTLO組織を形成した米スタンフォード大学のOffice of Technology Licensing (OTL)である。 OTLの成功によって、米国の研究開発政策と民間への技術移転がスムーズに動きはじめ、これによって日本国内でも、日本版バイ・ドール法といわれる大学等技術移転促進法が1998年に施行された。バイ・ドール法とは、米国で1980年に制定され、大学発発明の取り扱いと知的財産の果実の使途に一定の指針を与えた法律のことである。
 こうした動きが、大学発ベンチャー設立などを加速させ、技術移転による産業活性化を目指そうとする機運が、日本国内にも熟していった経緯がある。
 北海道TLO(株)が設立されたのは、そういった潮流が高まりを見せ始めていた1999年12月のことである。初代社長には、当時の北海道電力社長である泉誠二が就任し、道内銀行やJR北海道などから人員を出向させて組織を形成した。
 業務は、北海道大学はもとより、道内各大学の教員・教官(当時)が発明した知的財産を権利化し、蓄積しながら必要としている民間事業者に技術移転を図ること。広域TLO業務である。
 契約が成立すれば、教員・教官に対して一定のロイヤリティを支払い、残りはTLO組織の維持財源と発明者の所属する大学への設備投資などへ回すこととしていた。そのため、会社設立のための出資金も、大学教員・教官が個人で拠出した部分が多く、期待度の高さは相当のものだった。
 ところが、このシナリオが崩れ始めたのが、文部科学省が2002年度から開始した「知的財産本部整備事業」によって、北海道大学に知的財産本部が設置されてからである。

「北大版」技術移転戦略は復活できるのか

 知的財産本部整備事業の目的は、本来、2004年に独立行政法人化を控えた国立大学に対して、将来の運営財産として自ら生産する知的財産を大学そのものに充当させ、自主運営の姿に一歩でも近づけるためのものだった。
 だが北海道大学の場合、不幸なことに知的財産本部を知的財産囲い込みの場とし、技術移転のための営業セクションを事実上最後まで持ち得なかった。逆に、技術移転を本来目的として設立されたTLO組織である北海道TLO(株)は、北海道で最大の知的財産の源泉である北海道大学に本社を構えていたにも関わらず、その恩恵に浴することができなかったのである。 もともと北海道TLO(株)内部で70%を占める北海道大学由来の知的財産は、法人化による「特許の機関帰属」によりその供給源を絶たれ、新陳代謝を図られることもなく内部で陳腐化していったのである。
 ただでさえ特許のライセンシングによって収益を生むには、長い期間と広範な営業努力が不可欠であるという。そのようなTLO組織に立ちはだかったこれらの事情によって、北海道の技術移転戦略は一旦頓挫した。  頓挫した技術移転戦略をどう立て直すか。北海道大学は、経営事情が悪化していた北海道TLO(株)を清算し、機能を大学内部に呑み込むという決断を下した。同時に、知的財産本部を改組し、産学連携機能を強化した産学連携本部として設置し、全学の窓口機能を集約しようと考えたのだ。
 北海道大学産学連携本部副本部長の荒磯恒久教授は言う。
「まず、知的財産の生産部門と技術移転の営業部門を一体化するところからはじめなければならない。それら全体を外部組織にする方法も有効だが、北海道における知財のマーケット規模等から性急な採算事業を避け、中長期的な展望のもと北海道大学内部に組織を置くこととしたのです」
 実施計画では、北海道大学産学連携本部内部にTLO部門を設置し、技術移転業務を行うと同時にTLO部門内に広域連携室を置き、他大学との技術移転に関する連携協力を行うとされている。
 再び荒磯教授は言う。
「大学内部型TLO組織にあって広域連携業務を行う例は、国立大学法人では初のケースとなる。しかし、北海道TLO㈱の事業を承継する上では、この点は極めて重要となる。また、地域における産学官連携を発展させる意味でも、これまでのように知的財産の創造にだけ注力していれば良いことにはならない。民間事業者が使いやすい知的財産を、大学側が積極的に作り上げていく必要もあるだろうし、民間事業者側には、より高度な発明について、活用できる方策を知らせていく必要もあるだろう」
 この連携協力にあたっては、北海道大学は道内の他大学に対して「知的財産の技術移転に関する協定書」を締結することとしており、今年度は室蘭工業大学、北見工業大学、酪農学園大学とそれぞれ協定締結し、さらに多くの大学・高専等とも締結し連携協力をする予定だ。
写真:北海道大学の産学官連携拠点とされる「北大北キャンパス」(2006年当時)。産学連携本部は左端の建物(創成研究棟)に入居している。
拝 映輔
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