Interview・田中博見氏・(株)アルファ・トレンド代表取締役社長/2004-07-04 |
堅牢なサイト構築で“成長途上の上場”果たし 目指すは「北のアクセンチュア」 ****** 田中博見社長率いるアルファ・トレンドは2004年3月16日、札証の新興成長企業向け市場“アンビシャス”に第2号銘柄として上場した。00年にグリーンシート市場に登録して株主数や時価総額を確保、上場直前に株式を無償分割し、上場前の株式公募価格は6万5,000円である。 通常の上場シナリオとかなり趣を異にするのは、ベンチャー企業が飾り立てて上場し、後に財務上の問題で汲々とするより、等身大の上場を果たし、成長過程を株主にも楽しんでもらうという田中社長自身のポリシーから。 株価も公募水準を上回って推移していることから、このポリシーもある程度受け入れられたといってよいだろう。さらに大きかったのが、道内ベンチャー企業に対する“株式上場”への認知向上だ。 “メイキャップしない上場”が恐らく史上初めて実現したことで、他の道内ベンチャーも、株式公開の具体的なイメージを描き始めた。 ****** ――上場の感想とアンビシャス市場の印象は。 田中 上場に関しては、赤字では駄目、企業の時価総額が2億円以上、成長性が毎期10%以上という基準設定で、やはりハードルが高いという感想を持ちました。しかし、こういう基準だからこそ、アンビシャス市場に上場されれば注目してもらえる。実際に当社が上場してから第1号銘柄のキャリアバンクも再注目され、取引がかなり活発になったと聞いています。もう2~3社上場してくると、かなり市場としての体裁が整うのではないでしょうか。市場自体は全国区で注目されていますから、まずは上場して良かったというのが感想です。 ――上場準備としてグリーンシートに登録されていましたね。 田中 02年3月に、グリーンシートへ登録したんですが、これは当社がパブリックカンパニーを目指すという意思表示でもあり、それまで漠然としていた上場という目標を、株主に対して約束する意味もありました。2~3年で上位市場(札証アンビシャス)へ出ると宣言しました。 最大の魅力は株主数が増えることです。株主の数は普通、簡単には増えません。縁故で少しずつ増やすしかないわけですよね、通常。また、当社はグリーンシートで9200万円調達しましたが、これも、馬鹿みたいな赤字を作らない限り会社の資産に計上されます。例えばアンビシャス上場には純資産が2億円以上必要なんですが、これを資本金1億円の会社が内部留保だけで達成しようとすると、毎年4000万円の経常利益を上げても5年はかかるわけです。IT業界ではビジネストレンドが5年も続くわけがありません。この5年という時間をグリーンシートによって短縮できたんです。 ――なぜ札証を選んだのですか。 田中 まず、子会社となったプライムファームは会計コンサル業で、顧客に地場企業が多いこと。次に地場にもロイズなどの優秀な企業があり、道内でまだまだ足場固めが可能という判断もありました。 当社の場合、完成形での上場では決してなく、ステップアップの手段としての上場に過ぎません。つまり、完成した企業に投資するのではなく、投資によって成長するわけですから。それを直接調達することで補おうとしただけです。北海道にももちろんこだわりがあります。 本州のVCの方は、「北海道の人はまず、すぐに北海道のためにと言うが、それは投資家にとって関係ない」と言います。しかし私は、地域に生きている以上、地域を考えることは決して悪くないと思っているんです。 北海道に対するこだわりでメリットと言えば、例えば通勤環境や開発環境などがありますが、こういう部分では、もっと北海道の良さをアピールしていきたいですね。 ――最近は財務コンサル業にも力を入れていますね。 田中 ITは基本的に経営支援ツールなんです。当社は最近、PSP(Partnersip Strategy Provider)という概念を提唱しています。協力関係を築きながら企業戦略を売っていこうという当社の考え方です。 ITといえば、ツールを売り歩くことが主な仕事と考えられがちですが、それでは価格競争に巻き込まれる。カンナやノコギリを「良く切れますよ」といって売って歩くのと同じです。では、そのカンナやノコギリでどんな家を建てるのかという発想がない。当社はそうではなく、企業の成長や成功そのものを売っていきたい。 そのために必要なのは、まず戦略、次にwebも含めたマーケティング、ヒューマンリレーションマネジメント、さらにファイナンス、アカウンティング、そしてそれらを効率良く実現するITです。当社はマーケティングとITの会社、そしてパートナー企業のプライムファームはファイナンスとアカウンティングの会社ですから、リソースはほぼ揃っている。 ――会計コンサル各社も、かなりIT化を進めています。 田中 会計分野では、アメリカより日本の方がむしろIT化は進んでいます。さまざまな会計ソフトがパッケージ化され、あらゆる中小零細企業が導入している。ただし、それは過去会計の電子化です。この分野は他社がすでにシェアを築き上げているので、あまり興味がありません。未来をどう描かせるかが最大の課題なんです。 各種会計ソフトは世の中にたくさんありますが、それで答えが出るのは過去の指標なんです。つまり、過去のデータをかき集め、効率良く計算するという、計算機としてのITです。こういったITのあり方はもう終わりだと思います。アカウンティングのことを社内では過去会計と呼んでいますが、BS/PLをいくら効率良く作れたとしても、未来に何も影響を与えない。つまり会社は何も変わらないんですよ。 これを未来にもっていくためには戦略が必要になってくる。間接金融が疲弊し、直接金融の比率が高まってくると、いままでのような穴埋めの資金調達はできなくなります。お金のためのお金ではなく、何のためのお金かを明確にする必要があって、そこに未来会計、Business Process Re-engineeringの意味があると思うんです。 例えばロイヤルカスタマーがいたとして、それが何を求めているのかを知るのにも、ただグラフを見ているという時代は終わっています。少しでも前に進む側に移るため、“PSP”を広めていこうという立場なんです。 当社は成功を売る会社になりたい。そのためには、営業品目をどんどん上流工程にシフトさせなければならない。つまり戦略部門ということです。下流に留まり続けると、ドロ沼の価格競争に巻き込まれてしまう。これは会計事務所も同様です。自由化の波が押し寄せていて、早晩権益として残るのは税務申告のサインだけではないかと言われている。差別化を図り、付加価値の高い方へどんどんポジションを移していかないと大変なことになる。 ITと戦略系コンサルの合体といえば、アクセンチュアですよね。当社も北海道のアクセンチュアを目指しています。そしていずれは全国レベルの企業になりたいですね。 ――今後の主力はサイト構築と財務コンサルの二本立てということですね。 田中 いまの当社の事業を決定づけたのは、交通新聞社(旧・弘済出版)のweb展開事業「どこなび.com」でした。Unix系での開発でしたが規模も大きく、アクセスが集中することも目に見えていた。これをやり遂げたことで、当社には堅牢なアクセス対応、24時間メンテナンス体制の構築、webマーケティングといったノウハウを得るキッカケになった。これは日経ネットナビにも表彰され、当社のフラッグシップサイトにもなっています。メガポータルなどがほとんどない当時、2ヶ月で100万pvを超えたわけですから、大きな自信と実績です。 コンサルについては、周囲の環境に恵まれていたんです。ベンチャーに思い入れの強い公認会計士(板垣洋氏)とお会いでき、もともとコンサルテーションに来ていた方には副社長にもなって頂いてます。 これはITも会計コンサルも同じことですが、価格競争に巻き込まれないためにアクセスに強く、実績が豊富でしっかり戦略が策定できる会社を目指しています。ITでは早くて軽い頑丈なソフトをリーズナブルなサーバーに、会計では身内で上場資料を作り上げた経験をもとに強みを発揮していきたい。コンサルで財務の根幹を見、ITで事業の根幹を見させるというスタイルですね。 これには社会的信用が不可欠で、その意味でも認知度や社会的信用が向上した上場の意義や効果は高かった。その中で体力をつけ、パッケージやコンサルメニューの充実などにメドをつけていきたいですね。 ****** 技術者出身の田中社長は、“人びとの目に触れる仕事がしたい”と、サイト構築の世界に飛び込んだ。いまでも事務所隣のサーバールームに何万ものアクセスが来ていることに感じ入るという。 また、研究室レベルだったLinuxにいち早く着目し、開発実績を積んできた“慧眼”もある。今後はその慧眼を生かし、企業戦略や財務戦略などをカバーしたITのあり方を提唱していく。その技術は、常に目の届かないところにありながら、クライアント企業の姿を目に見える形で変えていくことだろう。 ****** たなか ひろみ 1962年、旭川市生まれ。93年アルファークラフト(現・アルファ・トレンド)を設立、代表取締役社長に就任し、98年より本格的にWeb関連のソフトウェア開発を手がける。「どこなびドットコム」(交通新聞社)や「さっぽろ・えきバス・ナビ」などサイト構築では実績多数。2001年、道内企業初のグリーンシート登録を果たし、03年に現社名へと社名変更。04年3月、札証アンビシャス市場に上場。01年、札幌商工会議所「北の企業家表彰(起業家優秀賞)」受賞。趣味はゴルフ。 ****** ●(株)アルファ・トレンド 札幌市白石区本郷通13南1-13 Tel.011-860-7380 Fax.011-860-7378 http://www.alphacraft.co.jp/
写真:田中博見氏 拝 映輔
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