発行:Funahasi.Com & 北海道経済産業新聞運営委員会
Last UP Date:2014-06-29
Interview・山岸喬氏・北見工業大学教授/(株)はるにれバイオ研究所副社長/2004-07-19
伝承医学から漢方処方を解析、
現代技術で“新機能”を探る
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 北海道の花、ハマナス。その佇まいからは想像もつかないが、かの花には極めて豊富なビタミンCと、アントシアン系のポリフェノールが含まれているという。分析を行ったのは、北見工大教授の山岸喬氏。ヒントは江戸時代の古文書『胡地養生考』にあった。山岸氏は、これを大学発ベンチャー、はるにれバイオ研究所で商品化しようと試みている。
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 ――ハマナスの花に注目された経緯を。
 山岸 江戸時代の古い文献に、『胡地養生考』というものがありまして、この中にハマナスの花が壊血病の治療薬として出てくるんです。昔のアイヌの人びとは、これを茶のように煎じて飲んでいたという記述があり、調べていけば何か面白い物質が出るだろうという期待はありました。
 ――研究した結果、どうでしたか。
 山岸 予想通り、大量のビタミンCが検出されました。しかも特徴的なのは、通常のビタミンCと違って熱に強く、壊れにくいんです。茶にして飲むという記述は、現代のビタミンCに対する考え方からは間違いになりますが、ハマナスの場合はこれで全く大丈夫だったわけです。また、アントシアン系のポリフェノールを大量に含んでいることもわかりました。
 ――ポリフェノールですか。
 山岸 これが、強力な抗酸化機能を持っています。例えば体臭の場合、おおもとを辿れば、脂肪酸が酸化してできたものになるんですが、この酸化を抑えることによって消臭効果が期待できると思います。ほかにも糞便臭や加齢臭、あるいはシワの原因にも脂肪酸が関連していますので、この抗酸化機能をうまく引き出せれば、“アンチエイジング”に応用できるのではないかと考えているところです。ヘタを取り、粉末化して食用にすることを考えているのですがね。
 ――すごいですね。
 山岸 ただ、問題はハマナスの花の調達手段。50~60年前には香料の原料として栽培されていましたが、いまは商業栽培は全くされておりません。
 幸い北見地方には、当時使われていた八重咲きの品種がほんの少し残っていまして、これを栽培協力して頂ける農家の方にお願いして、育てて頂いているんです。
 ――原料がなければ商品化は難しいですからね。
 山岸 向こう1年間の原料となるハマナスの花は、ほとんど当社が買い占めてしまったようなあり様です。当社は地域の植物から機能性成分を分析し、新たな商品を開発するというコンセプトで活動していますが、まずは商業栽培できる下地がないと難しい。
 ――はるにれバイオ研究所は、第1号製品をすでに市場に投入していますね。
 山岸 小寺一社長が開発した、アトピーをはじめとした大抵のかゆみに使えるという“貴肌水”ですね。あの商品も、日本では馴染みのなかった「かゆみに対する地膚子・蛇床子の処方」という中国漢方の処方からの発想です。国内の処方にはありませんから、まずは化粧品としての販売ですが、ヒト介在データなど、十分な調査をして、恥ずかしくない製品に仕上がっていると思いますよ。
 ――小寺社長とはどういうご関係ですか。
 山岸 北大薬学部時代からの友人で、25年ほど前に東洋医学会北海道支部の設立で、一緒に奔走したこともあるんですよ。10年ほど前に、彼が“貴肌水”の前身になるローションを創ったんですが、その頃から「商品化したいね」と言い合っていました。2002年にはるにれバイオ研究所を設立して、やっと夢が叶ったわけです。私は設立から若干遅れて、2003年に副社長になっています。
 ――はるにれバイオ研究所での山岸先生の役割は。
 山岸 やはり、研究開発がメインになります。とくに、古文書に載っている漢方処方から、現代医学の技術を駆使して機能性物質を探って行きたい。 過去の文献には、それまでの伝承医学が持つ経験知が詰め込まれています。そこに、現代の科学でスポットを当てれば、まだまだ機能性物質がたくさん眠っていると思います。
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 地膚子・蛇床子を配合したローション、ハマナス花弁を利用した健康食品のほか、はるにれバイオ研究所ではハマナスエキスやヒソップエキスを利用した消臭スプレーなども開発段階に入っている。過去の叡智に現代の技術でスポットを当てる同社の今後に注目したい。
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やまぎし たかし
 1945年11月17日、平取町生まれ。1970年東京理科大薬学部大学院修士課程修了。73年北大薬学部にて薬学博士号取得。76年道立衛生研究所生薬製薬科長、90年住友金属HQL研究所を経て北見工大教授。専門は天然物化学。日本薬学会会員、日本生薬学会北海道支部役員、日本東洋医学会北海道支部役員。著書に『北海道の薬草』(北海タイムス社)『北海道山菜実用図鑑』(北海道新聞社)など多数。2001年、北海道文化奨励賞(科学部門)受賞。
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●(株)はるにれバイオ研究所
 http://www.harunire.jp/
写真:山岸喬氏
拝 映輔
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