発行:Funahasi.Com & 北海道経済産業新聞運営委員会
Last UP Date:2014-06-29
Interview・土井尚人氏・(株)ヒューマン・キャピタル・マネジメント代表取締役社長/2004-08-08
支援機関ではなく“併走機関”として
道内VBの不足する経営資源を埋める
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 2002年7月に設立された小樽商大発ベンチャー、ヒューマン・キャピタル・マネジメント(HCM)は、他のベンチャーに対して役員を派遣すると同時に、人材育成セミナーや販路構築などを通じ、ベンチャーインキュベーションに焦点を絞った活動を続けている。代表取締役社長の土井尚人氏に現在の状況を聞いた。
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 ――どんな事業をされていますか。
 土井 ベンチャー企業のスムーズな立ち上げと成長のために、さまざまな課題に一緒に取り組むというのが基本スタイル。どうしても必要なときは取締役として経営陣に加わって一緒に会社運営を行います。役員派遣と呼ばれています。自分たちは支援機関ではなく、“併走機関”と呼んでいます。
 ――併走機関ですか。
 土井 ベンチャー企業に対して役員を派遣するなどして、課題に対して一緒に取り組むという方法ですね。
 スタッフには銀行出身者、ベンチャーキャピタル(VC)出身者が多く、金融機関の内情をよく把握しています。ベンチャー企業がどこを強化すれば投融資を受けることが出来るのか、あるいはどのベンチャー企業がどんな強みや弱みを持っているのか、ベンチャーに対して改善すべき課題を見つけ、交渉の仕方を指導しています。
 金融機関とベンチャー企業がスムーズに交渉できるよう、財務的な部分での“翻訳装置”としては、ある程度機能しているという自信はあります。
 ――資金が必要な場合は、まず相談に応じるわけですか。
 土井 ただし、当社が不安を感じるベンチャーを金融機関に推薦するようなことはあり得ません。当社としての信用にも関わりますし、ベンチャーの側に改善すべき課題が多いのであれば、金融機関を巻き込む以前に当社としてすべきことがたくさんあるということです。
 ――HCM独自ですべきこととは。
 土井 その場合は、ベンチャーにないものを自分たちで埋められるよう、最大限の努力をしています。大抵の場合、不足しているのは人材。人、物、カネという、いわゆる企業に必要なリソースをコーディネートしながらベンチャーの育成を図っていきたいんです。
 ――なるほど。それで支援ではなく“併走”であると。
 土井 当社の設立パーティのとき、高橋はるみ道知事(当時道経済産業局長)が、
「この会社は官業圧迫です」
 と仰ったのが印象的でした。しかし、産業育成の場面でも、民間がやった方が効率的な場合も多い。
 ――効率的な場合とは。
 土井 例えば大学発ベンチャーがあったとします。多くの場合、研究者が自らの研究シーズを基に、事業を起こしていくわけですが、産業界とうまく言葉が通じない。産学連携や産学官連携が、テンポ良く進まない理由のひとつです。こういったとき、研究者の方々と一緒に、同じ企業の役員として一緒に歩む民間の人間は必ず必要になります。言葉のギャップを埋める翻訳装置が必要なんです。
 道内のベンチャーが国内大手企業との交渉を始めているケースも、少しずつ増え始めました。うまく行くか行かないかは、もって行き方次第です。 ノウハウを提供するにせよ、製品を供給するにせよ、自他の企業周辺の状態をよく知っておかないと、不利な条件での交渉になってしまう。ノウハウの根源である大学、製品を提案し続ける企業の、両方をよく見続けることが重要なわけです。
 ――道内ベンチャーには何が不足していますか。
 土井 不足しているものは個別のベンチャー企業によってまちまち、幅広いです。
 経理や総務部門といった人事・人材関係から、販路・提携先といった営業関連まで数多い不足があります。しかし、決してないものではなく、探せばあるものばかりというのも事実です。解決するには、不足しているものをリストアップし、探し出して繋ぐという、地道な作業の連続です。
 ――公的機関などではマッチングパーティをはじめさまざまな試みをしています。
 土井 マッチング・パーティを開催するだけでは成果を出すのが難しいのです。前段でどれだけの仕掛けができるかが大きなカギになります。例えば、参加企業に対して、今回必要とするものは何か、取りあえず決めておいてもらうというのも、一つの手段です。財務なら財務、販路なら販路と決めておけば、パーティに参加した人に声をかけやすくする方法はいくらでもあります。事前に参加企業のデータを互いに交換し合い、メールなどで連絡を取ってもらうのも手段のひとつ。こうすれば、そのパーティでその人間に会うという、明確な目的がひとつ出来ることになります。必要なのはパーティそのものというより、事前の準備にどれだけ手間をかけるか、ということでしょうね。
 ――起業したキッカケは。
 土井 もともとは小樽商科大大学院に社会人入学し、そこでの同級生同士の会話から始まったんです。現在は社内であれ社外であれ、イノベーションを起こすことができる経営人材が必要な時代です。そういう人材が増えてこそ、初めて北海道におけるビジネス構造が変わる。では、そういった人材を育成しようというのが最初の発想になり、ヒューマン・キャピタル・マネジメントという社名になったんですね。
 起業の際、小樽商大には非常に協力的な支援を頂き、山田家正前学長には顧問に就任して頂きました。大学院生が作り、教官がアドバイザーに入っているというわけで、当社も大学発ベンチャーの一員ということになったわけです。
 ――それ以前にも土井社長はベンチャーに関わっていましたね。
 土井 私自身の体験は、同じ大学発ベンチャーのメディカル・イメージ・ラボ(MIL)との関わりから始まります。創業当初のMILで資金需要が発生し、数千万円の資金を借りる必要が出てきた。それで役員になってくれと言われたのですが、当時私が勤めていたコンサルティング会社では、役員就任には否定的。仕方がないのでその会社を辞め、MILの役員になったわけですが、その後は東京の経営コンサルから声がかかっていました。そこに同級生から起業の話が持ちあがり、今に至ったわけです。
 ――北海道での起業に不安はありませんでしたか。
 土井 北海道には可能性がある、というのは良く語られる話ですが、いまのベンチャー企業に関わる人材の質、事業の成長性を見続けていると、それは全くの事実だと私自身も判断したわけです。あと必要なのはヒューマン・キャピタルのみ。そういうことであれば、私たちの努力でそこを埋めるのは、決して不自然ではないというのが、最終的な結論です。
 ――現在はどんな状況ですか。
 土井 MILは2期目で単年度黒字化を果たしました。当社も実質一期目から黒字で推移しています。どこまで続けられるかわかりませんが、数字も大事ですからね。
 ――HCMにはインキュベーションルームもありました。
 土井 インキュベーションルームには、正式に4社が入居し、9社がブースを共用しながら使用しています。事務所も少し模様替えし、現在の本社オフィス兼インキュベーションルームからオフィス部分を移して、インキュベーションルーム専用にしようと思っています。
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どい ひさと
 1967年兵庫県神戸市生まれ。89年関西学院大経済学部卒業後、安田信託銀行(現みずほ信託銀行)入行、札幌支店に配属される。99年退職後、コンサルティング業務を経て02年HCM設立、現職。
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●(株)ヒューマン・キャピタル・マネジメント
 札幌市中央区大通西5 昭和ビル8F
 Tel.011-231-1117
 http://www.hcm.ne.jp/
写真:土井尚人氏
拝 映輔
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